アイコン&ロゴ誕生秘話

北海道情報大学・坂田悠真 さんインタビュー
テックワークスが開発した「デジタル装具手帳アプリ」。インストール時にまず目に入る、印象的なアイコンとロゴを手がけたのは、北海道情報大学3年生(当時)の坂田さんです。デザインコンペへの参加は、同大学・安田光孝教授(情報メディア学部情報メディア学科)の紹介がきっかけでした。社会課題の解決を目指すアプリの“顔”は、どのようにして生まれたのか。制作の裏側とデザインに込めた想いを、指導教員・安田先生とともに語ってもらいました。
「実績を残したい」という気持ちで踏み出した一歩
―― 今回のロゴデザインコンペには、どのような経緯で参加されたのでしょうか?
坂田:安田先生から「コンペに出してみないか」と声をかけていただいたのがきっかけです。正直、その時は「デジタル装具手帳」がどんなアプリなのか詳しくは知らなかったのですが、何か実績を残したいという気持ちがあって、深くは考えず「やります!」と返事しました。最初はホームボタンなどのアイコンを作るのかなと思っていましたが、実際にはアプリのアイコンとロゴの両方の制作でした。
安田:アプリ開発、特にUIデザインに関わる機会は、ウェブ開発などに比べると少ないので、良い経験になるかなと思って声をかけました。それに当時、うちの別のゼミ生がテックワークスさんでアルバイトをしていた縁もありましたし。
―― ゼミ生の中から坂田さんを選んだ理由は
安田:デザインができて、アプリ画面の設計にも興味がありそうな学生を、と考えて坂田くんともう一人に声をかけました。二人ともセンスがあると思っていたし、競わせた方が良いものができると考えました。
わかりやすさと的確さのバランスを模索したラフスケッチ
――参加を決めた後、すぐにテックワークスさんと打ち合わせを?
坂田:はい。オンラインで弓野さんから、「デジタル装具手帳」がどういうアプリなのか、「装具難民問題」(※適切な装具を入手・管理できずに困っている人がいる問題)の解決を目指していること、デザインの方向性の要望、といった具体的な説明を受けました。
―― その説明を聞いて、率直にどう感じましたか?
坂田:結構、難しい挑戦になるだろうな、というのが第一印象でした。ターゲットがお年寄りや足が不自由な方々にはっきりと絞られている一方で、「デジタル装具手帳」という、まだ世の中にない新しいものを、アイコンというシンプルな形で表現しなければならない。要素を絞り込みすぎると伝わらないし、かといって要素を詰め込みすぎても分かりにくい。どんな要素をどう組み合わせれば、ターゲットに分かりやすく、かつアプリのコンセプトを的確に伝えられるのか。そのバランスが非常に難しいと感じました。
―― 参加を決めてから、すぐに制作に取り掛かったのですか?
坂田:はい。まずは思いつく限りのアイデアを、とにかく紙に描き出していきました。先生にも後で見せましたが、自分でも驚くほどたくさん描きましたね。

安田:本当にすごかった。小さいものも含めると、50案近くあったんじゃないかな。審査会の時に見せてもらって、その量と熱意に驚きましたよ。
坂田:最初のうちは、なかなかアイデアがまとまりませんでした。「デジタル」と「装具(足)」と「手帳」という要素を単純に組み合わせたり、逆に情報を詰め込みすぎたり…。どうすれば「デジタル装具手帳」を分かりやすくアイコンで表現できるのか、かなり試行錯誤しました。最終的に第1案は、手帳をモチーフにした分かりやすいイラストで提案しました。

第1案のロゴ
2度のプレゼンとフィードバックの積み重ね
―― 最初の提案(第1案)はどれくらいで制作したのですか?
坂田:最初の説明から2週間ほどで形にしてプレゼンしました。プレゼンでは、もう一人の学生と全く違うアプローチで提案できたのが印象的でした。私は親しみやすさや分かりやすさを重視したキャラクター的なデザイン、もう一人は抽象的でトレンド感のあるデザインでした。
安田:どちらの方向性がアプリに合うか、審査側でも議論になりました。
坂田:プレゼン後、「要素が多すぎる」「まとまりきっていない」といった指摘を受け、第2案を制作することになりました。

第1案のコンセプト
―― 第2案ではどのような点を意識しましたか?
坂田:第1案で詰め込みすぎた要素を削ぎ落とし、「繋がり」を最も大事にしようと考えました。ラフの中にあった「装」の字に足が生えているデザインがユミノさんに「面白い」と言っていただき、そのアイデアを活かして第2案に仕上げました。
安田:Androidのアイコンが円形で表示される場合も考慮し、線の太さや間隔、視認性も細かく調整しました。
坂田:フィードバックはとても分かりやすく、厳しいというより優しく指摘してもらえたので、やりやすかったです。
―― ロゴタイプ(文字部分)もアイコンに合わせて調整したのですか?
坂田:はい。アイコンの角ばった感じや「繋がり」のニュアンスをロゴタイプにも反映させました。第1案では文字同士がくっつきすぎて読みにくかった部分も、フィードバックを受けてバランスを取りました。
完成の喜びと、自身の作品が広がっていくことに対する気持ち
―― そうして完成したロゴデザインを見て、ご自身ではどう感じましたか?
坂田:まず、自分の案が選ばれたことが、めちゃくちゃ嬉しかったです。ラフスケッチの段階から本当にたくさんの案を描いて試行錯誤したので、その努力が報われたような気がしました。同時に、デザイン制作は本当に大変だったな、とも感じています。特に、アイコンの「くるん」とした曲線を綺麗に見せるための微調整や、伝えたい意味をどう要素に落とし込むかという部分にはかなり苦労しました。デザインの基本である「情報の整理」の難しさを改めて痛感しましたね。でも、その分すごく勉強になりましたし、本当にいい経験になりました。このような貴重な機会をいただけて、とてもありがたいと思っています。
―― ご自身のデザインが、チラシなどになって全国に広がっていることについては、どう感じていますか?
坂田:正直、少し怖い気持ちもあります。デザインのプロではないので、プロの方が見たら「もっとこうすれば見やすいのに」と思われるのではないか、と。まだ自分のデザインが世に出ているという実感もあまり湧いていなくて…。ただ、このアプリが、装具を利用されている方々が安心して外出でき、人との繋がりを築くきっかけになれば嬉しいです。自分がその一助となれたことには、とても感謝しています。このロゴに込めた「繋がり」が、どんどん広がっていけばいいなと思います。

完成したロゴ
デザインの原点と今後の展望
―― 坂田さんご自身について聞かせてください。デザインに興味を持ったきっかけは?
坂田:小学生の頃から、なぜか美術だけが突出して得意だったんです。小学6年生の卒業時に、担任の先生から「お前に美術で教えることはもうない」と言われたことが、すごく嬉しくて心に残っていて。それがきっかけで、中高でもデザインに興味を持つようになりました。
―― 美術が得意なら、アーティストの道もあったのでは?
坂田:そこは結構、現実的に考えました。大学に入る頃にはIT化が進んでいて、将来性を考えると、アートよりもデザインの方が仕事に繋がりやすいかな、と。もともと興味があったデザインと、今後伸びていくであろうIT分野の両方を学べる情報大学に進学しました。安田先生のゼミを選んだのは、学外との関わりが多く、自分が成長できる機会がたくさんあると感じたからです。今回のコンペも、まさにその機会の一つでしたね。
―― 現在4年生とのことですが、今後の目標について聞かせてください。
坂田:就職活動では、これまで実績を積んできたロゴやポスターなどのグラフィックデザインの分野を中心に考えています。ただ、デザインの仕事で本当にやっていけるのか、という不安も正直あります。デザインを作る過程は大変ですが、同時に楽しい。でも、職業として続けていけるのか…。まだ葛藤はありますが、まずはグラフィックデザイナーとして就職できるよう頑張りたいです。将来敵には、大きな目標を掲げるよりは、目の前にある仕事一つひとつに真摯に向き合い、信頼を裏切らないように、コツコツと実績を積み重ねていきたい、という気持ちの方が強いです。足元をしっかりと固めて、人との繋がりを大切にしながら進んでいきたいと思っています。
安田:地に足がついているね。素晴らしい。海外などに出て、もっと見聞を広めるのも良い経験になると思いますよ。

坂田さん、安田先生、貴重なお話をありがとうございました。坂田さんがデザインしたロゴと共に、「デジタル装具手帳」が多くの人々の助けとなり、社会との繋がりを広げていくことを期待しています。